平成30年度8月海外派遣活動報告

平成30年度8月海外派遣活動報告

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近年の情報化社会への潮流において、情報端末の小型化やメモリの高密度化が進んでいる。製造プロセスではナノスケールオーダーでの加工を要し、さらなる発展には物質の熱膨張すら問題となってきている。そこで、熱膨張抑制材の混合により熱膨張を相殺する手法が注目されており、負熱膨張物質の研究が盛んに行われている。我々のグループで合成されたペロブスカイト型BiNi1-xFexO(BNFO)は室温付近の領域で-180 ppm K-1と大きな負の熱膨張係数を持つ。本物質を用いてエポキシ樹脂など大きな熱膨張を示す物質の熱膨張抑制にも成功しており、実用化が大きく期待される物質であるが、合成には高酸化雰囲気での高温高圧プロセスを要することから合成コスト及び効率の観点から実用からほど遠いのが現状である。

今回、私はアメリカ合衆国シカゴの北、エバンストンにあるノースウェスタン大学に滞在し、本物質の低温低圧合成を目標として研究を進めてきた。共同研究先であるKenneth Poeppelmeier 教授はBNFOと同様の構造を持つGdScO3の水酸化物ハイドロゲルを経由した常圧300℃での合成に成功している。BNFOが低圧で合成できない理由の一つとして、低圧下ではペロブスカイト相が高温で分解してしまうことが考えられ、低温での原子拡散が可能となる本手法はBNFOの低コスト合成への糸口となると期待される。

滞在中はPoeppelmeier 教授および研究室の学生であるRyan Paull氏との議論を重ね、合成前駆体である水酸化物ハイドロゲルの作成法の最適化を行ってきた。帰国後、滞在中得た前駆体を用いた合成を行ったところ、高酸化雰囲気を要さず、プロセスの簡便化、収量の増加が可能であることが明らかとなった。合成圧力の調査は帰国後の課題ではあるが、今回の成果により合成コストの大きな削減につながる確かな知見を得た。

自身の研究のみならず、グループメンバーの研究テーマについてもディスカッションすることが多く、有意義な滞在であった。今後もPoeppelmeier 教授およびグループメンバーとの関係を維持し、共同研究を続けていければと考えている。

滞在したノースウェスタン大学。理工系の広い分野の研究室が一つの建物群に集結していた。 滞在したノースウェスタン大学。理工系の広い分野の研究室が一つの建物群に集結していた。
私とKenneth Poeppelmeier 教授 私とKenneth Poeppelmeier 教授

物質理工学院材料系材料コース
博士後期課程2年  西久保匠
滞在先: Northwestern University, Chemistry Department