材料・デバイス研究

高機能分子システムの先端レーザー分光に関する国際共同研究

研究概要

化学・材料研究のフロンティアは超分子や生体機能分子のように大きな分子の集合体が高い機能を発揮する機構の解明と、新しい高機能分子系の創成へ向かっています。そこで本国際共同研究では高機能な分子システムの中から1)生体分子認識機構解明に対するボトムアップアプローチ(藤井、石内、Lisy、Dopfer、Zehnacker-Rentien、Xantheas)、2)光励起プロトン・水素原子移動反応(藤井、宮崎、石内、Jouvet)、3)生体関連分子に対する分子レベル溶媒和ダイナミクス(藤井、宮崎、Dopfer)を取り上げて先端的なレーザー分光と最新の理論・計算化学により解明を目指しています。

  1. 生体分子認識機構解明に対するボトムアップアプローチ
    生体機能は分子認識により精密に制御されていることが知られている。例えば遺伝情報はDNA内でA-T, G-Cという核酸塩基対の分子認識により伝達され、また、神経伝達では受容体がアドレナリンのような特定の神経伝達物質を認識して機能し、「鍵と鍵穴」の関係に例えられる。しかし、生体分子は様々な構造を取れる柔らかな分子であり、なぜ柔軟な分子同士が「鍵と鍵穴」と言われる精密な分子認識ができるのか、自明ではない。そこで本国際共同研究では、生体超分子から分子認識を司る部分(ポケット)を取り出し、このポケットが示す分子認識機構をレーザー分光による構造決定から解明するボトムアップアプローチを行なっています。この新しい方法論により、β2アドレナリン受容体、イオンチャネル、アルカリ金属の薬理効果などのメカニズムの解明を目指しています。
  2. 光励起プロトン・水素原子移動反応
    プロトン・水素移動は化学や生物、光化学での基本的な反応です。特に芳香族分子の光励起による水素原子移動反応はJouvetにより提唱され藤井・石内が分光学的に証明した光化学反応で、従来プロトン移動反応と思われていた多くの光化学がこの機構で説明されたことから光化学反応のパラダイムシフトの例と言われています。さらにこの反応は芳香族を含む生体分子の光損傷防御機構と考えられ、また、生体での反応閾値を下げるProton-Coupled Electron Transferの最も簡単な例であり、注目を集めています。この国際共同研究では芳香族酸の溶媒和クラスターをモデル系として取り上げ、時間分解分光と励起状態理論計算によりその機構解明と一般化を目指しています。
  3. 生体関連分子に対する分子レベル溶媒和ダイナミクス
    溶媒分子の再配向運動は溶液化学の最初の段階であり、反応速度や効率などに大きな影響を与えます。そのため溶液に対する多くの研究が行われていますが、特定の溶媒分子がどんな速度で、どのような経路で移動するかまで明らかにすることは容易ではありません。特に問題となっているのはbiological waterと呼ばれるタンパク質など生体分子に対する水和水の挙動であり、水分子がどの程度の寿命で移動するのかさえ氷のように長寿命とする説からピコ秒(10-12秒)とするものまであり、平たく言うとbiological waterはネバネバなのかサラサラなのか分かっていないのです。そこで本国際共同研究では、ペプチド結合など生体機能部位のモデルとなる分子の水和クラスターを極低温気体状態で生成させ、これに時間分解分光を適用することで特定の溶媒分子の運動を分光学的に直接観測してその移動機構を解明する研究を行なっています。これにより従来不明だったbiological waterの性質が明らかになりつつあります。